|  | 光一 
 「うーん、眠い……
 
 眠いが仕事を……」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「マスター、
 
 こんにちわー!!」
 | 
    
      |  | 光一 
 「おーい、綾香君?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「はぃ?
 
 遅刻じゃないですよねぇ?
 
 今日は遅くていいって言ってましたよねぇ?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「挨拶間違えているよ」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「え…………
 
 だって今11時ですよう?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「綾香君…………
 
 その日最初に会った時には
 
 挨拶は『おはようございます』だよ。
 
 社会人の常識」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「えー…………
 
 もうお昼近いのに……」
 | 
    
      |  | 光一 
 「そういう問題じゃないの。
 
 言葉はちゃんと使わないと」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「はーい」
 | 
    
      |  | 光一 
 「あ、そういえば綾香君」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「なんですかぁ?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「昨日頼んでおいた
 
 年末のシフトだけど、大丈夫?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「はい。
 
 全然平気ですよう♪」
 | 
    
      |  | 光一 
 「綾香君、綾香君?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「今度はなんですかぁ?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「また、言葉遣いがおかしい」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「ふぇ?
 
 どこがですかぁ?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「『全然平気』ってのはおかしいよ。
 
 『はい、問題ありません』
 
 でいいじゃないか」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「んもぉ…………
 
 いちいちウルサイですねぇ」
 | 
    
      |  | 光一 
 「いや、うるさいもなにも……
 
 社会人の常識だからね?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「常識ばかりにこだわると、
 
 かえって弊害もでますよぉ」
 | 
    
      |  | 光一 
 「そういうことは、
 
 常識が身に付いてから言おう。
 
 そうでないと、中身が薄く感じるぞ」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「はぁーい…………」
 | 
    
      |  | 光一 
 「社会人である以上、
 
 それなりの常識を身に付けていないと
 
 恥ずかしいよ?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「反省しまーす」
 | 
    
      |  | 光一 
 「自分がいる段階その他での
 
 必要な知識などは持っていないと
 
 どこでどうなるか分からないのだし……」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「はぁーい」
 | 
    
      |  | 光一 
 「現にだよ、私の職場でも
 
 大学でスペイン語をやるという人間が、
 
 『ボンジュール』を
 
 スペイン語と思っていたり…………
 
 『シエスタって何?』
 
 って聞いてきたり…………」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「あー、それは…………」
 | 
    
      |  | 光一 
 「私、頑張って
 
 志望動機書の原案作ってあげたのに……
 
 本人がまさか……まさか……」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「今日の日記に出てきた
 
 生徒さんですねぇ…………」
 | 
    
      |  | 光一 
 「あんな状態で大学へ行って、
 
 果たして大丈夫なのかなあ……
 
 と、ものすごく気にかかる」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「確かに……必要な知識は
 
 ちゃんと身に付けておくべきですね」
 | 
    
      |  | 光一 
 「知識というか……常識というか」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「ということでぇ、
 
 今日も仕事がんばりましょう♪」
 | 
    
      |  | 光一 
 「まあ、そうだね。
 
 話はここまでにして、仕事にかかろう」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「マスター。
 
 こっちの牡蠣料理は、
 
 私が仕込んでもいいですかぁ?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「……………………
 
 何をするつもり?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「大丈夫ですよぉ♪
 
 今日は刺したりしません♪
 
 生ガキを岩塩の上に盛りつけ♪」
 | 
    
      |  | 光一 
 「何が大丈夫かはともかく…………
 
 すまないが綾香君。
 
 君はこちらの果物をむいておいて」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「私ももっと色々
 
 一品料理作りたいですぅ」
 | 
    
      |  | 光一 
 「うん。まあ、ある程度の技量があるし、
 
 いくらかの料理はまかせているけど……」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「あー、牡蠣だからダメですかねぇ?
 
 最近、ノロウイルス流行し出しているし
 
 食中毒出たら、大問題ですもんねぇ
 
 マスター、昨年感染しているし」
 | 
    
      |  | 光一 
 「まぁ、それもあるが…………
 
 時に綾香君?」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「はい?」
 | 
    
      |  | 光一 
 「牡蠣には二種類あってね、
 
 それは『加熱用』なんだ。
 
 加熱用は、火を通さないとダメ」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「あっ、ホントだ!!
 
 『加熱用』って書いてあるの見逃した
 
 うっかりしてましたぁ……」
 | 
    
      |  | 光一 
 「いくらなんでも見逃すかね……
 
 綾香君は常識うんぬん以前に、
 
 そそっかしさを直さなくてはダメだね」
 | 
    
      |  | 鳴島 
 「あぅー…………」
 |