光一
「ふう…………」鳴島
「マスター。
こんにっちわですぅ♪」光一
「綾香君、遅い！
遅刻だよ、ち〜こ〜く〜！」鳴島
「すいませぇん……
寝坊しちゃいましてぇ……」光一
「君ねえ…………
この喫茶店に１人しかいない
ウェイトレスなんだから……
遅刻は困るよ」鳴島
「は〜い…………」光一
「第一、社会人が遅刻の原因を
寝坊はないだろう……
せめて別の理由でつくろうとかしたまえ」鳴島
「いやぁ…………
そんなところでつくろっても、
怒られるのは同じですしぃ……」光一
「バカモン！！」鳴島
「にゃうん！？」光一
「君ねえ…………
形式美だよ、形式美。
同じ失敗でも理由の付け方で
相手の心証も変わるだろう？」鳴島
「まぁ……そうですけどぉ……」光一
「まあ、遅刻した事実に変わりは無いが……
形式と中身は違うといっても、
やはりとりつくろった方が良いよ
ウソも方便というだろ？」鳴島
「は〜い…………」光一
「うーん…………
しかし頭が痛い……」鳴島
「そういえばぁ、
さっきマスターうなってましたねぇ？」光一
「元々肩凝りがひどくてね……
頭痛も絶えないんだよ……」鳴島
「そういえばそうでしたねぇ」光一
「ましてや私の職場ではさ、
ネクタイ着用はほとんど絶対だろ……
他の職場では夏場だと
ノーネクタイなんかも
進行したりしているのにさあ……」鳴島
「まぁ…………学校だと。
生徒がネクタイしていると、
教員側もしているしかないですもんねぇ」光一
「これこそ、単なる形式美だよ……
そもそもネクタイなんてのは、
ヨーロッパのスタイルだろ？
日本の風土に別に合っているわけではないし」鳴島
「でもぉ、ネクタイをしていると
仕事しているぞ！！
って周りにアピールできますよねぇ」光一
「そもそも、その固定観念自体おかしいけど。
ネクタイしているから仕事していて、
そうでないと仕事していない……
ネクタイはフォーマルで
ネクタイ無しはアンフォーマル……
って実態はもう古いものだろ？」鳴島
「でも、ネクタイとスーツって
多くのサラリーマンがしてますよねぇ？」光一
「まあ、いわゆる形式美だなあ。
私はネクタイなんて肩が凝るし、
夏は暑いし……機能的でなくて嫌いだ」鳴島
「そういえばぁ、
『服装の乱れは風紀の乱れ』
とか何とか…………
そういう標語ってありませんでしたっけ？」光一
「あったね。
そうだとしたら、少なくとも形式的にだよ、
全員が制服を着用させられている学校は、
健全な空間だというわけだ。
そんなこと絶対に無いけど……」鳴島
「でもぉ、
ちゃんと服を着こなしている人と
そうでない人には
規範意識の差はありますよねぇ？」光一
「それは認めるところだね。
生徒でも、制服をきっかり着込んでいるのと
そうでない生徒は…………
確かに授業態度その他も全然違う」鳴島
「だとするとですよぉ、
やっぱり単なる形式美ではないのではぁ？」光一
「まあ、ある側面ではね。
でも、別の見方をしたらさ、
服装をきっちり着こんでいたって
外見だけ良くって中身のないのっているだろ？」鳴島
「まぁ、そうですねぇ……」光一
「政治家なんてのは一番良い例かも。
外面はきっちりスーツに包んでいるけど、
中身はとんでもなく汚いヤツばかりだし……
あんなモラルのない人たちに、
頭ごなしに教育どうのと言われたくない」鳴島
「それはそうですねぇ」光一
「まあつまるところは……
形式美でつくろうべき場所も多々あるけど、
形式はあくまで形式だから
それは過渡になっちゃダメで……
より中身を鍛えられるようにしないとね」鳴島
「そういえばぁ
またなんでこんな話に？」光一
「あー…………
私のところに先日、
『ローン商品』のハガキが着てね」鳴島
「三井…………
大手企業ですねぇ」光一
「ハガキには当然さ、
私の住所と名前が書かれているんだけど……
まあ、ちょっとハガキ見てみてよ」鳴島
「うわ！？
住所・名前のシールが……
スゴイ曲がってる…………
まるでマスターのひねた根性みたい……」光一
「……………………
余計なことを言ってなかったかね？」鳴島
「い〜えい〜え！！
言ってませんよぉ！！」光一
「ともあれさ、
ハガキの住所・名前を
思いっきり曲げて貼られていると……
さすがに気分は悪いねえ……
大量量産して、数撃てば当たる……
って商品だろうけどさ…………」鳴島
「まぁ…………
せめて綺麗に貼って欲しいですよねぇ。
買う意欲なくすなぁ…………」光一
「住所・名前が思い切り曲がってるし……
貼る位置も右に偏ってるし…………
なんというか、作業している人間の
気持ちを体現しているよなあ」鳴島
「形式美はやっぱり中身を表していますよぉ」光一
「イヤだが、認めるしかない部分があるね」
