親の義務

予備校生時


私には予備校生時代がありました。

その頃は電車通いで、

地獄のような体験をしたこともありました。
(痛笑No.38「奴隷船体験ツアー」)










しかし、

電車に乗っていると辛いことばかりでもありません。

様々な人間模様が圧縮された空間。

それが電車なのです。

下は幼稚園児から上は老人まで……

ありとあらゆる階層が存在し、

人生の喜怒哀楽全てが無言の中に組み込まれているわけです。










さて、

それは12月の寒い冬の日でした。

予備校帰り、

センター試験も近づいていたその頃、

追い詰められていた私はピリピリしていました。

私は電車内で単語帳を必死で暗記していましたから、

周囲の喧騒が気になるわけです。










そのような周囲の喧騒に顔を上げて、

何が起きているのか見てみました。




















12月の寒い車内。

カップルがいちゃついているのが目に入りました。

素で殺意が芽生えた瞬間でした。










さて、

そのような俗物

から目を転ずれば、

仲睦まじい親子がいるではないですか。










5歳くらいの子供が、

父親らしき人物と遊んでおります。


なんか、これは微笑ましい♪










その小さな天使の微笑に。

そして出入り口付近で立って

それを見守る父親の温かいまなざしに、

どれほど癒されたことでしょう♪










さて、

まだ5歳くらいの子供です。

電車内が空いていると見れば、

はしゃぎださずにはいられないご様子。

父親に突進して行っては、



父「高いたか〜い♪」


子供「わぁ〜い♪」



と抱えあげられる。

そんなことの繰り返し。










いい光景だなあ……

と単語帳をめくる手を止めて見ていたそのときです。










ダダダダダダダダ!!










先ほどまでと同じように、

子供が突進していきます。

助走をつけて、父親が立つ反対側の出入り口から、

父親の立つ側のドアへ。










そして、


またも父親の胸に向かってダイブ!!











































ゴンッ!!











……ドサッ……










子供「…………………」










乗客たち「…………」


光一「ぁ…………」




















父親。

何を思ったのか、

多分ちょっとしたイタズラだったのでしょうけれども……










突進してきた子供を、


ヒラリと回避。










ダイブした子供は、

そのままの勢いで


電車のドアに激突!!



そのまま、

ずりずりとマンガの一コマのように床へ落ちていきました。











さすがに父親も驚いて、


父親「ゴメン!! 大丈夫?」


と声をかけます。










盛大に


ゴンッ!!


って音とともにドアにぶつかった子供。











偉い!!

泣きませんでした。

いい音がしていたのに……










電車内が


シーン


と静まり返るくらいの音だったのに……










光一「うわー、強いなボウズ」


と私は心の中で思っていました。

他の乗客たちもそう思っていたことでしょう。










我々のそのような心の声を、

近くにいたオバサンが代弁して、


オバサン「ボウヤ強い子だね〜♪」


と、その子の頭をなでて言ってくれました。










我々は、

父親の謝罪に対し、

その5歳児が何を言うか注目したのです。
























































子供「あのねー、


親は子供を守る義務があるでしょう。


ダメじゃないの




















乗客一同「……シーン……」


光一「ポカーン」












開いた口が塞がりませんでした。











このセリフ今でも忘れられません。











5歳児の父親に対する、


『親は子供を守る義務があるでしょう』











聞いていた私たちの方も、

予想外の言葉にうろたえました。

その心を、

さっきまで頭をなでてあげていたオバサンが、

またもきっちり代弁してくれていました。










オバサン「そ、……そうだよねー。うん……」





















さて。

父親が、


父親「あっ、うん。そうだね。ごめんねー」


とやや


うろたえながら返していたこと……




















子供「まったくもー、次から気をつけるんだよ」


と、子供がトドメの一撃のように刺し込んできたこと……




















先ほど私が殺気を覚えたカップルですら、


一瞬口をあんぐりとさせていたこと……
(というか、同じ車両の全員)












未だに忘れられないのです。


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