4/4(金)

 戦争被害の実態とは、どう考えるべきか(市民の犠牲者)=メディアに対する姿勢


 どうも、光一です。今回は戦争被害の中でも、特に関心の強いと思われる「市民の犠牲者」をどう考えるかということで話を進めます。

 米軍がバグダットを攻略したと報道がなされています。あとは、ティクリートなどの都市制圧が表面上の課題のようです。

 実際には、そう単純とは思えません。なぜなら、南部諸都市の陥落はまだ届かず、この瞬間にも多くの市民が殺害されているからです。

 予想通り、「罪のない市民に被害が及ばないようにしている」というブッシュ声明は、崩壊しています。市民の被害が出るたびに「最小限ですむように努力した」という報道官。そこには、ブッシュ声明に盛り込まれていた、「生命の尊重」の行間が放棄され、「生命の軽視」が伺われます。

 「わが国と世界に対する脅威が取り除かれる」というブッシュ声明も、破綻の兆しを見せつつあります。治安の極度の悪化が報道されていますが、戦後の治安悪化は、すでにアフガニスタンでも見られたとおりです。そして、市民の略奪行為を米軍は止められない。止めるようなことをすれば、おそらく米軍による「正当防衛的」な「市民への発砲=殺害」に結びつき、イラク国民全体を敵に回すからでしょう。
 バクダットでは、米軍を狙った自爆テロや、それに過敏反応した米兵による銃撃も発生しているようです。ここから、長期的に見た場合、イラクがさらなるテロの温床になることは避けられそうにありません。暴力と悲劇は連鎖を生むものです。

 さて、紙面でも有名になった市民団体「イラク・ボディカウント」が、市民の死者数を開戦から4月10日までに1123〜1359人と推計しています。しかし、実態はこれではわからない。

 米軍発表では、自分たちの「誤爆」を隠したい思惑があるため、実態よりも少なく発表する可能性があります。また、自爆攻撃や民兵との交戦があり、どれが民間人か分けることも難しいでしょう。現に、米軍はイラク軍に限っていえば、「死者を数えることは無駄」として、すでに数え上げを放棄しています。

 イラク発表では、自分たちが侵略を受けていることを強調するため、その被害は実態以上になる可能性があります。

 つまり、市民団体、アメリカ、イラクや他のアラブ諸国の発表は、それぞれに立場や影響力の範囲・思惑から、相当の差があり、実態を把握することは難しい。ともすれば、戦争容認・反対の立場などによっては、自分に都合のよい数値を上げかねないため、情報に翻弄される可能性が高い。普段からメディア情報に接する市民にとって、これらの情報を相対化し、実態はどうかと疑う姿勢が必要なのです

 さて、イラクの人々の被害実態はどうなのか、と考えるとき、我々はすでに落とし穴にはまっているのです。その落とし穴とは、

 @被害=空爆などの戦闘行為に巻き込まれた人のみを被害者と捕らえる=実態よりも少ない被害となる。
 A現在の戦況だけで判断する=長期的な想像ができない。

 大きく分ければ上記の二点だと考えます。では、以下にその説明をしていきます。


 @被害=空爆などの戦闘行為に巻き込まれた人のみを被害者と捕らえる=実態よりも少ない被害となる。

 これは、市民団体「イラク・ボディカウント」がその好例でしょう。つまり、イラク市民が何人空爆で死んだのか、そこから被害を把握するわけです。
 これはこれで重要なことなのですが、これだけで戦争被害を把握することは、我々の目をくもらせることになります。
 つまり、空爆などの被害は住宅地の破壊だけではないのです。そこには、破壊された電力施設・ガス供給ラインなどのインフラの破壊が含まれます。
 結論から言えば、市民生活の基盤を破壊することで、日常の世界が破壊され、その二次被害が発生するということです。
 想像してください。道路が破壊され、車両が爆撃され、検問で輸送車両が足止めを食らった時に生じる被害を。
 例えば、病院ならば「薬品の不足または入荷の遅延」「普段から病気で入院している人々の薬品不足」「戦争による負傷者の増大=医師と薬品の不足の加速化」「電力の不安定化による、医療機器運用への支障」「コンピューターなどを破壊する電子爆弾=医療機器やペースメーカー使用者への二次被害」「劣化ウラン弾使用=白血病患者の戦後の増大<これは湾岸戦争後、イラク市民をいまだに苦しめている。この人たちの治療にも支障>」など、他にもいくらでも想像できますが、二次被害が広がることになります。
 つまり、戦争の被害者とは、戦争中であっても、単に戦闘で負傷するだけではなく、それによるインフラや治安の破壊で多くの二次被害を生むことです。湾岸戦争も、その戦闘での死者よりも、戦後の白血病による死者のほうが多いと聞きます(劣化ウラン弾による白血病増加=10年間で100万人以上の発症があったと聞きます)


 A現在の戦況だけで判断する=長期的な想像ができない。

 メディアの最大関心は「いかにして視聴率を確保できるか」です。これを忘れた場合、我々はメディアの情報に翻弄されることになりますし、政府などに都合のよい情報を鵜呑みにする危険性があります。

 メディアは、イラクの人々が死んだ現場や、米軍がイラク軍を掃討する現場を毎日のように流しています。そして、この戦争現場の緊迫感や非日常性が「視聴者受けが良い」わけです。

 そうすると、我々は「現在の戦況は?」「被害は?」「フセイン一族の居場所は?」といった現在進行形の戦争の一場面に関心を集中することになり、またメディアもそこへ的を絞るわけです。

 ここには長期的な視野が抜けています。今のニュースや新聞を見れば、その関心の最大は「フセイン一族の居場所」「バグダットの略奪」「クルド勢力の南進」であり「長期的なイラクの展望」「イラクへの復興支援」「国際的な協調体制への枠組み」は少ないといわざるを得ないわけです。

 戦争は当自国以外も巻き込み、深刻な被害を生み、戦後処理を誤れば(おおくは誤る)、「富の偏在」「階層・民族対立」「地域対立」「政治対立」などを深刻化させる結果になりかねない。そういう現実に我々は直面していることを忘れてはならないのです。

 それゆえに、「現在の戦況は?」とか「被害は?」などといった報道に翻弄され(しかも多くは不確かな情報であることがすでに露呈している)、長期的な展望を欠くメディア情報は大きく批判されるべきであるし、それに翻弄される市民も反省をするべきなのです。そこから戦争の被害実態の真相が見えてくるのです。

 @でも書いたように、戦争の被害は戦争中以上に戦後に現れるものです。戦争中でも、間接的な被害が直接的な戦争被害を上回ることがほとんどです。ハイテク戦争といわれる現在では、より二次被害が深刻なのです。

 戦後の「地雷や兵器処理」「インフラ復興」「戦争被害者へのケア」「治安の回復」はそれら二次被害拡大を完全に防ぐことはできません。しかも、アメリカが戦後のイラクを主導したいと主張しているように、戦後復興は「大国の利権争い」の対象とされ、戦争で被害を受けた人々のケアが行き届かず、かえって治安を悪化させる要因になります。結局、独裁政治からの解放を謳いつつ、その大義から離れていくのが戦争なのです。

 さて、ここまで戦争被害の実態とは、どう考えるべきか(市民の犠牲者)ということで話を進めてきました。我々はメディアの情報をもっと賢く批判し、真相を導くべきです。そうでなければ実態は一向に見えることがないからです。
 今、時代は情報の時代です。その情報をいかに鵜呑みにせず、実態を把握していくかがこれからの市民の義務ともいえるかもしれません。また、そうあることで、これからの生きる力ともなるわけです。さらには、強力な世論形成にも結び付けられるわけですが、その話はまたの機会にしようと思います。


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